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北朝鮮ミサイル危機
<山本皓一の
特別リポート>
韓国の対北要塞の島から

 緊張が続く朝鮮半島はいま、どうなっているのか、わたしは まず白鴒島を訪れた。韓国・仁川から229キロ、38度線 上に浮かぶ三宅島よりひと回り小さいこの島は北朝鮮本土までわずかに11キロ。 西海(黄海)の要といわれている。
  島全体は要塞化され、 長い間、秘密のベールに包まれ、外 国人の入境を拒んできた北朝鮮に最も近い島でもある。人 口わずか4000人の半農 半漁の島には、住民と同じ数の 完全武装 をした韓国最強の海兵隊が、昼夜を問わ ず警戒に 当たっている。
 北朝鮮の亡命軍人から聞いたところによれば、「韓国との戦闘になったときの最優先侵攻ポイントはこの白領島だ。最短1日、最長3日で占領できる」という。北朝鮮はこの島を占拠することで、西海制海権を握り、仁川攻略の橋頭堡とし、目と鼻の先のソウルへと侵攻する、そんなシミュレーションを行っていると いう。船をチャーターして 白鴒島の周囲を巡ると、断崖絶壁の洞窟から砲身が覗いている。小高い丘の上には、高射砲陣地や巨大なレーダードームもある。岬の突端には戦車砲や海岸砲。島には170を超える地下シェルターと軍の巨大な地下基地がある、まさに「要塞」だ。さらに白鴒島と同等か、あるいはそれ以上の緊張が続くDMZ(非武装地帯)の周辺では、戦時体制並みの演習が、連日行われている。
これまで、DMZに沿った軍事用「統制道路」は一般の立ち入りが禁止されて いたが近年一部利用が許可された。初めて立ち入った統制道路には、両側に戦車基地、155ミリ砲陣地が立ち並び、一般人の通行の脇で、実弾の轟音と砂煙が絶えることはなかった。韓国軍関係者によれば、北からの侵攻は「ミサイルと海」だという。お互いが睨み合う北緯38度線の非武装中立地帯には数千、数万という地雷が埋まっており(両国とも正確な数を把握していない)、その上水害などの影響でどこに埋めたかも分からなくなっている。非武装中立地帯を進軍すれば、北朝鮮の試算では37%、韓国の試算では30%の兵士が損なわれるとされ、リスキーな地上からの侵攻よりも、東西海域からの挟撃を想定する方が、より現実的ということだろうか、海岸を狙う海上行動が目立ってきている。例えば、ワタリガニの漁場の領海権を巡って、北朝鮮の軍艦3隻が韓国海軍によって撃沈され約80人が戦死、韓国側も7人が負傷するという”海戦”や、昨年にはユーゴ級潜水艦が漁網にかかり、北朝鮮9人が自決するという事件もあった。
一方、日本領海内では不審 高速艇と自衛艦の追跡、銃撃事件も起こっている。昨年のテポドン1号発射以降、日本は情報衛星の導入、新 ガイドライン、戦域ミサイル防衛研究(TMD)、高速ミサイル艇新造、と矢 継ぎ早に対策を発表したが、これらは、 すべて北朝鮮にとって日本が敵国であ ることを明確にした。


  例えば、昨年12月18日に起きた韓国による北朝鮮の小型潜水艇の撃沈は、対馬 から100キロに満たない釜山南西の巨済島沖で起きた事件である。今年3月、150メートルの深海から引き揚げられた 潜水艇内からは多くの日本製品が発見され、武器と一緒に日本円100万円も見 つかった。このことが意味することは何 か。  
 ミサイルと海からの侵攻。韓国領海内や日本海に出没する潜水艇や工作船は、その北朝鮮の南進パターンを裏付けるものだ。  東海(日本海)からの侵攻ポイントで ある江陵には、96年9月に座礁した北朝 鮮の3000トン級小型潜水艦が、いまでは観光名所として整備され、観光客が訪れている。韓国では「太陽政策」の一方で、「安保教育」と称し、幼少時から有事の際の戦闘や国防の必要性を教育して いる。
 最近、韓国政府は国策として、38度線の近くに30万人収容の大型団地を建設した。平地にわざわ ざ盛り土をして建てられたこのマンション群は、なぜか38度線に対して平行に建てられている。北朝鮮を向いた窓は小さく、屋上には大型クレーンが備え付けられている。実はこのマンションは、北朝鮮のミサイル攻撃の防壁として建てられたものなのだ。軍関係者によれば、軍 が設計にも関与したという。非常事態時には、住民は軍にマンションを明け渡し、クレーンで砲台を屋上に持ち上げれば、バリケードを兼ねた最前線の要塞が 瞬く間に姿を現すことになる。 (以下略)